神奈川県建築史図説の発行について 

Last Updated[1999/7/9]


星野芳久(神奈川県建築史図説委員会 委員長)


「神奈川県建築士会の誇るべき刊行物として,「神奈川建築史図説」があります.

これは,昭和37年に当士会の創立十周年の記念事業として刊行されたもので,故・松島俊之会長(当時)と内藤亮一委員長(当時・横浜市役所)のもと,建築史の大家・大岡実先生の監修を得て実現しました.

神奈川県下の優れた建築物を写真や図版を多用しながら紹介した書籍で,現在となっては入手はすこぶる困難です.時として古書展で見受けることもありますが,通常,すこぶる高値がつけられています.「高値」なのは,「入手困難」なこともありますが,なんといっても「内容の充実した良書」であるからです.

いまを去る十余年前の昭和63年に建築士会全国大会が当神奈川県下で開催されるのを契機としてさまざまな企画が検討されました.その時に,この「建築史図説」の続編を出版したらどうかということになって,当委員会は設立されたのです.委員長には「建築史図説」においても若手の「編集」担当として尽力された碩学の田中祥夫氏(当時・横浜市役所)が着任され,私も副委員長として氏を補佐することとなりました.

このようなわけで,私たちが「建築史図説委員会」と称してるのは,正しくは「続・建築史図説委員会」とでもいうべきもであります.それはともかくとして,編集内容を決定するまでには曲折もあり,相当の時間を要しましたが,当初の「建築史図説」が古代から関東大震災までを扱ったのに対して新しい「建築史図説」では幕末・明治維新から第二次世界大戦の終戦(昭和20年)までを対象とすることになりました.最終的な目次構成も定まり,建築物単体を担当する「建築グループ」とまちづくりを扱う「都市計画グループ」に分かれて執筆作業が進められました.そして,一年ほど前から,いよいよ今年度末あたりの刊行を目標に,士会首脳各位に出版社をも交えて各種検討を重ねてきたのです.

しかし,社会全体が非常に厳しい状況にある昨今です.当士会とて例外ではあり得ません.このような事態のもとで出版を急がずに時期をみたらいかがであろうか,平成14年に巡ってくる当士会の創立五十周年に合わせて周年事業として組み立てることも有意義ではないか,との意見も出されました.委員会としましては,やむ得ない事情も理解でき,また周年事業とするのも合理的であるとの見解から,その方向で企画を再検討することとなりました.ただ,ここに至り,田中祥夫氏は,今までの仕事で職責は果たした,今後は新しい体制で臨むのがよい,とのお考えから委員長を辞され,私への交替を指示されたのであります.委員会を立ち上げ指導してこられた田中氏によって本事業が完遂されるのが本意ではありますが,後をお引き受けしたからには,成果を見事に結実させるべく委員各位と頑張りたいと思います.

私は出版時期の延長を,この際,むしろ活用したいと考えています.

当初の企画では対象を終戦までとしていますが,戦後すでに半世紀以上を経過していることを思えば,何らかの対応が検討されて然るべきかとも思われます.士会の会員諸氏は建築の生産に日々かかわっておられるのですから,歴史的な事項ばかりでなく新しい建築の紹介や記録保存も重要です.そうだとすると「新・図説」は「神奈川県建築史図説」というよりも「神奈川県建築図説」と呼ぶべきものとなるかも知れません.

検討を要する問題は,他にもあります.

歴史的な分野からすると横浜をはじめ県東部の比重がすこぶる高く,その結果,記事や委員の構成にも偏りを生じているのが実状であり,これの是正も必要です.学術的な事業であり,委員には会員であると否とを問わず高い学識を有する方の参加が求められるとともに,会の事業であるからには,会員である委員の増強が望まれるのも,いうまでもありません.

創立五十周年に向けて新しい企画で,といっても時間的ゆとりはありません.当委員会は月に一度は会議を開いて協議検討を進めていますが,作業はなお急がなければなりません.そこで,このたび,会首脳のご理解といくつかの支部の支部長さんのご協力のもとに,幾人かの方に新たに活動に参加していただくことになりました.

このようにして,私たちの委員会は新企画に向けて始動を開始しております.将来的には,委員会や出版物の名称にも変更を生じる可能性すらあります.委員の委嘱,委員会の名称やその成果の内容,……これらは,いづれも,しかるべき手続きをふんで行われるべき事柄ではありますが,時間的切迫の問題もあり,ご理解をお示しくださった当会首脳や支部長の皆様に厚く感謝申し上げるとともに,当「さろん」の紙面をお借りして会員各位にもご報告するものです.

会員の皆様.

この委員会の活動は当士会にとって重要な事業となるべきものです.皆様のご意見やアイデア,役立ちそうな情報などを,当士会事務局気付けで委員会までお寄せ下さい.皆様と力を合わせて,会の「創立五十周年」に向けて立派な成果を上げたいと願っております.

(『さろん』No. 44,1999年1月,pp.19-20より)


神奈川県建築史図説

「神奈川県建築史図説(神奈川県建築士会編刊 1962年):神奈川県は鎌倉幕府の開府と横浜開港という二つの時期を持っている.この図説は古代から関東大震災まで建築作品および絵巻,古図,横浜絵,文化財などの関係資料からなるもので,現存の建築作品がない時代については絵巻や古図によって再現している.近代以降の建築作品については,出典,所在地,建物年月日,設計者,施工者,構造規模,経過が記述されている.本書が刊行された昭和37年には,地方建築についての類書がほとんどない時期で,先駆的著述といってよいもの.」(菊岡倶也編, 建築・都市・住宅・土木情報アクセスブック,1995年,学芸出版社.p.83)

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