キックオフイベント

おしらせ

公開シンポジウムは盛況のうちに無事終了しました。ご参加の皆様ありがとうございました。

当日の基調講演やパネルディスカッション内容の書き起こしを下記に掲載します。(動画配信を予定していましたが長時間に渡るため書き起こしとしましたのでご了承ください。)


感境建築コンペ2019公開シンポジウム要旨

2019年8月31日(土) 横浜市中区波止場会館4階

■基調講演 伊礼智「沖縄の外部空間から学ぶ」 14:15~14:50

1 伊是名島 銘苅家住宅
1 伊是名島 銘苅家住宅

「ヒンブン」という環境装置
・沖縄の民家の前庭に設けられた「ヒンブン」(屏風)には3つの機能。①目隠し②魔除け③動線の振り分け(客人や男は右へ、女は左へ)。町と家の関係を制御する装置といえる。単純に町に向かって開く、閉じるという関係ではなく、ゆるやかに繋がる、やんわり拒絶するという佇まいだ。
(事例:竹富島の民家=ヒンブンの内側はサンゴの白砂が敷き詰められた遊び場スペース、伊是名島の銘苅家住宅=琉球王族の旧居にふさわしい重厚なヒンブン)
・車の出入りに差しつかえるということで、失われていくのは残念なこと。

「雨端(アマハジ)」が産むグラディエーショナルな内外関係

2 下田のゲストハウス
2 下田のゲストハウス

・独特な軒下空間が、GLとFLの差を連続的に縮め、内と外、とりわけ庭園部分の緑と室内を繋ぐ役割を果たしている。
・雨端に抱かれた空間は、玄関からのフォーマルなアプローチとは異なった、近隣の人々との気安い交流の場ともなっている。
(事例:下田のゲストハウス、内外をつなぐ新たな「雨端」)

・沖縄の生活空間には、他にも気になるアイテムがある。
(事例:何もない男子禁制の祭祀空間=“御嶽(ウタキ)住まいの中央に何があっても鎮座する仏壇=トトメ)

「開口部の生きている家」

3 琵琶湖湖畔の家
3 琵琶湖湖畔の家

・方位に関係なく、道路側は「コモン」と考えて設計している。
・道路(コモン)が町並みを形成するので、たとえそれが北側でも裏の顔を創るのではなくて、町に対して窓を設け、町と繋がりつつ制御する工夫をする。
(事例:琵琶湖湖畔の家)

■パネラー発表
 関本 竜太 「街とつながる 環境とつながる」 15:00~15:20

「南面に開口部を開く」は不変の正義か=事例:隅切りの家2013
・北側に桜並木の遊歩道と接する敷地。既存住宅の北面クローズ、南面開口の形式を捨てて、隅切り状の開口部新設により北側の周辺環境を積極的に室内に取り込んだ空間を実現。

「対面する住宅とつながる」=事例:路地の家2017
・細い路地に接する敷地。たまたま対面の住宅がセットバックしていたことから、自らの敷地の後退分と一体となった小公園状の領域を創出。対面の家にも気に入ってもらっている。
・1階居間も、路地に対して閉じるのではなく、大きく開かれているが施主の抵抗感はない。

「あえて街に開く」=事例:KOTI 2018

4 KOTI2018
4 KOTI2018

・路地と私道の交点の三角地のスペースを、車置場とするのではなく、ベンチを置いたささやかな緑地とした。施主には外部の不審者がたむろすことへの不安もあったが、決断してくれた。
・今では近隣の人々がおしゃべりを楽しむ場。懸念は生じていない。

■パネラー発表
甲斐 徹郎 「コンペで考えること」 15:20~15:40

「快適な熱環境」とは=「体感」・「関係」
・快適な熱環境は、住宅の室内だけで実現されるわけではない。バルコニー状の空間によって低減効果をもたらすことも。
・「体感」温度を理解する必要がある。同じ25度でも空気温と水温の体感は明らかに違う。熱の移動速度の違いで、水の方が冷たく感じるはず。実験をしてみましょう(会場のスチール椅子の鉄部の温度を推定してもらうと、多くの参加者が室温より4~5度低いと回答したが、実測すると室温と同値)
・「体感」は、独立して感じ取られるものではなく、周囲との「関係」によって作られることを認識しておく必要がある。

「くらし」を町に拡張する=変わる価値観 コモアしおつの事例
・遠隔地大規模ニュータウンの販売政策の転換(安さではなく、住戸周りや街路の緑化を充実させて、環境を売りにすることを提案)。当初は消費者に受け入れられるかの懸念もあったが。
・1,000万円の価格差に対する購入者の反応は予想外。ある主婦の「一生の買物だから、後悔しない質の環境を買った」の発言に、街に対する価値観も変わる、変えられるものと感じた。

「共有する価値としての環境・コミュニティ=事例:沖縄本部町

5 沖縄本部町の防風林
5 沖縄本部町の防風林

・高邁で複雑な理念に基づいて、コミュニティの質向上を図ろうとしても無理がある。学生にコーポラティブハウスのことを教えて、自分の家をこの方式で作りたいか問うても、参加したいとする者はきわめて少ない。むしろ単純なコンセプトの方が共有される可能性が高い。
・「イワシの行動原理」は①群れの中心に向かって泳ぐ②周りのイワシと同じ方向性・スピードに合わせて泳ぐ③ぶつかりそうになったら離れるというシンプルなもの。しかし、単純な関係が繰り返され重なることで数万尾が整然と同じ動きを形成し、外敵に立ち向かえる。
・沖縄の集落では、個々の住宅が敷地の周囲に防風林を設けることが慣習に。その積み重ねによるつながりが地区全体に緑のネットワークを形成している。(事例:本部町備瀬地区の空撮)
しかし、沖縄全体では1960年代前半、RC造と木造の比率が逆転、RC化により住宅単独で防風性を確保する流れとなって地区の緑が喪失。家と町の間の関係を考える上で示唆に富む。

■ディスカッション 15:40~16:30

(甲斐)
伊礼さんの「住宅の北側=パブリック、南側=プライベートな空間」という固定観念にとらわれないとの発想は、実に腑に落ちる。

(伊礼)

6 ヴァンガードハウス
6 ヴァンガードハウス

現在、つくばの里山住宅博に出展中の「ヴァンガードハウス」でも、常識外の取り組み。玄関廻りはいわば「コモン」、そこをどう開いていくか。つくばでは玄関に続く居間の南北に、外部に開かれた大開口。「琵琶湖の家」では、道路に面した北側玄関側に水回りを集中させず、開口を設けたのもその趣旨。

(伊礼)
イワシの群れの話も、よく納得できる。

(関本)
そうした個別の試みの集積が、地域環境の質の向上につながればベストだが、私の「路地の家」のような成功はレアケースだろう。

(甲斐)
「路地の家」では対面の家同士の関係は良好なのか。

(関本)
良好だ。

(司会)
フィンランドでの体験が、関本さんの発想に影響を与えているか。

(関本)
夏のフィンランドの生活は、戸外にいるのが常態。玄関先が交流空間となっている。

(司会)
沖縄の雨端もそうした交流空間と捉えられるか。

(伊礼)
そのとおり。日射の強さから、生活や交流に不可欠な空間となっている。

(関本)
日本の他地域に見られる「縁側」空間と類似しているように感じるが。

(伊礼)
沖縄の伝統住宅では、「玄関」はなく、むしろ「雨端」からアプローチするのが普通だ。

(関本)
「縁側」「土間」のあり様の特徴は、土足のままで軽易なコミュニケーションを図れることだと思う。伊礼さんの、中庭を入れ子にするプランは、「どこが入り口かわからない」感覚を誘うことで、交流を活性化している。

(伊礼)
たしかに古来の沖縄の住宅には、門扉すら存在していなかった。

(甲斐)
住宅の庭のあり方だが、外とのつながりを意識するか否かで大きく異なる。そうした空間が使われなくなると、結局は死んでしまうわけで、使われるためには、パブリックな空間と連結されている必要がある。そのための一つの方法として、家族のアプローチ動線と、来客の動線を、庭のガーデニングなどにより適切に分離することが考えられる。

(司会)
「コミュニティの活性化」についてはどうか。

(甲斐)
個々の住宅の完成度が高すぎて、外部の環境と切断されている。その住宅にとって外部環境がどのような意味を持っているか、そのことを前提にして初めて、その先の「コミュニティ」が見えてくるはずだ。単に「仲良く暮らす」ということと「コミュニティが活きている」ということは別の話。

(伊礼)
「雨端」が生み出すグラディエーショナルな内外関係は面白い。水路を隔てて接道する敷地には、私設の小さな橋が設けられている例があるが、そのスペースがバーベキューに使われる。道行く近隣の人の眼に触れて、自ずと交流が発生するのも、そうした内外関係だ。雨端の端部に、BBQ設備をしつらえる、といった提案があっても良いのではないか。

(甲斐)
宮古島在住の建築家石志嶺敏子さんの提案だが、プライベートな空間を、グラディエーショナルに開いていく方法を考えるとき、「格子戸+窓+カーテン」といった階層構成に囚われるべきではないというものがあった。

(関本)
その意味で、「ヒンブン」や「アマハジ」は、完全な装置というよりも、不完全さを内包しながらも外部と自律的な関係を産み出せる装置と感じる。そうしたモノが必要ではないか。

(伊礼)
考えてみれば「魔除け」や「シーサー」は、その機能が厳密に定められているわけではないが、やんわりとした形で今も沖縄の住宅に伴っている。役割を「完全化」しようとする発想は、いったん捨てても良いだろう。

(会場)
先生方のお考えだが、つまるところ施主の、社会につながりたいという意識がないと実現しないのではないか。

(甲斐)
住まいの形が、施主の家族の意識を規定していく、と言う面もあると思う。施主と設計者のコミュニケーションを通じて「気付き」が発生することも、十分考えられる。

(関本)
施主も様々だ。また、当初は外に開くことに消極的だった施主が、発想を転換し今ではむしろ誇らしげに語ってくれている例もある。

(伊礼)
省エネ基準を達成するだけでは、何の魅力もないモノとしての住宅になってしまう。コミュニティにしても、拵えものとして形成されるわけではない。今日のメンバーのように南のデザインと北のデザインが融合できれば面白いものができるだろう。

(甲斐)
省エネ基準至上主義の方々に対し、単に「数値主義だからダメ」と否定するのは不適切。「数値のその先を詰めていない」とのスタンスで臨むべきだ。

(司会)
最後に一言。

(関本)
このコンペでは、あえて「不完全形」の提案を求めたい。それを放り込むことによって、どんな化学反応が起こるかを楽しみにしている。

(甲斐)
AかBかという二択問題としてではなく、それぞれが変えられないかという観点での検討をやってほしい。

(伊礼)
なぜ今日のシンポを提案したか。我々審査側の「楽しいコンペにしたい」という気持ちをお伝えし、応募のきっかけとしていただくためだ。妄想でもよい、写真1枚の一発芸でもよい、ふるって参加されることを期待する。

※画像出典
1 伊是名島 銘苅家住宅  いぜな島観光協会HP
2 下田のゲストハウス   irei blog
3 琵琶湖湖畔の家     同上
4 KOTI2018         RIOTA DESIGN HP
5 沖縄本部町の防風林   google earth
6 ヴァンガードハウス   茨城 柴材木店 HP


-以下は募集時の概要です-

公開シンポジウム開催のおしらせ(終了しました)

現在、快適性の指標においては、おもに定量的指標としてさまざまなものがあります。また、五感や心理(感情)などの定性的な面も含めて、人が心地よいと「感」じる「境」があると考えられます。 そして居心地の良さを考えるとき、良いと感じるその「境」は、家の内だけではなく、広くいえば町と家の「あいだ(間)」までいろいろな場面にあると考えられます。 そこで、人が心地よいと「感」じる「境」についてをテーマとしたシンポジウムを開催します。

●開催情報


日時:2019年8月31日(土) 14:00~16:30(13:30受付開始)
会費:無料
会場:波止場会館4階ホール(横浜市中区海岸通1-1)
波止場会館のアクセスはこちらをご覧ください
対象:建築士会会員 一般 学生

●パネラー


伊礼 智  建築家・伊礼智設計室
関本 竜太 建築家・リオタデザイン
甲斐 徹郎 株式会社チームネッ ト
コーディネーター 寺本 勉(主催事務局)

●お申し込み等


シンポジウムお申し込みは終了しました。